【建築士】2019年9月号「まちを考える」


現在、地元である三鷹のまちで、一つの空家の再生に携わっている。約3年間空家となっていた築60年の専用住宅(2階建て木造)を寄宿舎へ用途変更し、1階の共有スペースや中庭を可能な限り地域へ開く計画である。

運営計画をする人、実際に住んで運営をする人、お庭を考える人、地域に開く内容を考える人、建築を考える人、ハンドドリップコーヒーを淹れる人、工事をする人、等々、すべて地域の多様な人が集まって計画を進めている。このプロジェクトにおける設計者の役割としては、何らかの新しいモノを付け加えるというよりも、多様な意見を聞きながら、空家再生の在り方、建物や風景の新たな在り方、使われ方、の最大公約数を導き出していく形となっている。さらには、点で終わるのではなく、面で広げていこう、という視野も内包しており、たとえば地域の他の空家の利活用が進んで欲しいし、子が独立し、高齢者だけの住まいとなっているお家と連携を模索したり。

昨今、既存ストック(空家)の利活用が謳われ、法改正も順次行われている。また少子長寿化により、日本の人口は減少していく。空家は増え、人口は減る。「建築」の需給バランスや環境配慮を鑑みると、やはりあるモノを使う需要は増えていく、いや増やしていかなければな らないと思う。

空家の利活用と一言で言っても、世の中には多様な 空家が存在する。状態の良し悪しはもとより、使われ方としても、ある時期は専用住宅であるし、ある時はシェアハウスであるし、ある時はカフェかもしれない。法適合性 の対応としては、その都度の用途に対して法の解釈、対応が異なり、将来の変化を想定した対応を考えておく必要がある。

今後の設計者の役割の一つとしては、新しい使い方 を考えたり、法適合性を考え与えることそのモノが、デザ インや設計行為になっていくだろうと思う。今回のプロ ジェクトは、地域における「一軒の空家」という「点」で はあるけれど、まずは小さく始めるコトがまちが変わっていくキッカケに、という思いで取り組んでいる。

スモール・イズ・ビューティフル。