【浜田山の家】ユニソンさんカタログ掲載記事

 


「庭を通る心地よい光と風は、 街の風景とつながっています」
建築家 二宮晴夫さん(一級建築士事務所(有)アトリエハル)

リビングなのか庭なのか
 駅前通りを少し歩いて住宅街に入ると、左右から緑を囲むように建っているのが「アトリエハル」の住宅兼オフィス。道路側から見ると、中庭の空間が奥まで抜けています。この建物の中庭は外の道路に向かって開け放たれています。
 中に入ってみると、中庭を囲むように建つ建物は窓や扉が開けられ、それぞれの部屋が中庭と一体となった一つの空間としてのびやかにつながっています。どこが外でどこが中なのか不思議な空間で、エアコンの入った閉じられた空間で構成される普通の住宅とはまるで逆の世界です。

家も庭も街につながっている
 「僕の設計の基本は、家の内外をどうやっ てつなげたら豊かに感じられるような空間に できるかってことなんです」と、この建物を 設計した「アトリエハル」代表の二宮晴夫さ ん。家の中にいても外が感じられ、外にいても家の中が感じられる、つまりインテリアとエ クステリアを一体で考えていくようなデザインとのこと。
  ここは設計の仕事をする空間と家を兼用し た建物で、1 階はアトリエで 2 階が住宅となっ ています。間口に対して奥行きが結構あるので、建物を分けるように中庭を設け、奥行きが感じられるような配置にしたそうです。
 「道路に面した接客スペースは部屋のようですが、土間ですし外空間でもあるんです。庭にたまたまテーブルを置き、屋根をつけたという感じです。ガラス戸を開け放てば、家もオフィスも庭の自然も一体となって外の街につながるオープンな環境なんです。通りを行く人がこちらを覗いていったりしますね。それがいいんです」と、二宮さん。
「今、集合住宅でも全部閉め切ってしまうのが一般的になってしまって、せっかく庭を作っても外とは縁を切った形になっていて残念に 思います。セキュリティを気にする人もいるでしょうが、完全にクローズドされた人目につかない住宅がはたして本当に安全なのかな?って気がします」
 「私が作りたかったのは家と外がつながる デザイン。例えば、庭の手入れをしているとき、隣近所の方と触れ合えるような、街とのつながりが成り立っていくような空間です。すべて壁で囲って外部を遮断した空間を作っても、街全体との関係が難しくなって、結局街が寂しくなって住みにくくなってしまう。依頼されるお客さんにも “一軒一軒の家が街を作っ ていくんですよ、あなたと街との関係を良くする家を作った方が良いですよ” とお話ししています。街のコミュニティとどうつなげるか、それが最終的には住まう人々の快適さにつながると思うんですね」

エアコンは無し 庭の光や風を楽しむ
 お話をお聞きしていると、外から入った自然の風が天井近くの開き窓から入り、心地よくテーブルの上を通り過ぎていきます。久しぶりに味わった心地よい風に、心まで解き放たれたように感じました。
 そのテーブルの下の床は土。その上に木材のチップを固めた椅子が置かれ、緑が揺れる中庭を楽しめる空間となっています。中庭には、以前からあった井戸がそのまま佇んでいて、涼しげな雰囲気が漂います。
  見回すうちに、ここはもちろん、事務所にもリビングにも、エアコンがないことに気づきました。
 「エアコンは最初から付けないと決めていました。夏の陽光、冬の陽光の角度を考えて設計や植栽を考えています」
 このように、エアコン無しの暮らしを前提に考えた理由は何だったのでしょうか。

四季を体感させて子どもを育てる
 「日本の気候って、だんだん四季が分からなくなってきていますね。機密性の高い家もエネルギー的には効率が良い、空気をコントロールして室内の環境は快適に保たれるんでしょうけど、小さな頃からそういうところで育った子どもが、大人になった時に体の抵抗力とか心の情緒性とかがちゃんと育つのか疑問です。最近は親御さんもそういうことを気にされている方がいますから、庭のような外空間をうまく利用して、自然の力を活かした暮らし方を考えてもいいと思います」
 「技術でパッケージ化した住宅はお年寄りのケアにはいいですが、子どもはむしろ自然な環境の方が、心身も鍛えられると思いますね。人は本来、四季の気候を感じて暮らしてきたはずだけれど、コントロールされた温度に慣れてきて、自然の中に放り出されると不安になってしまうようです。しかし、完結したシステムばかりでは、全体のバランスが取れているのかな、って思います」

井戸水のミストと屋根の緑化
「アトリエハル」の建物をよく見ると、風の通りだけでなく心地よく暮らすためのさまざまな工夫が施されています。
 中庭などの外空間は土壁や真砂土舗装に、上の傾斜屋根も緑化して、夏の暑さを軽減する構造になっています。各部屋は、夏は井戸の水を床に通し、冬はガス温水ファンコンベクターにより床に温風を通して床暖房をしているそうです。この井戸水は、床を通った後にミストで再利用して土に還すしくみで、エコにこだ わっています。
 訪れたのは夏の終わりで、庭ではちょうど 井戸水をホースに通し、ミストノズルで霧状にして水を庭に散布していました。このミストノズルは軒にぶらさがったよしずの上にもあり、涼しい空気が流れます。
 道行く人と挨拶を交わす開放的な空間は、庭の緑だけでなく、どこか余裕と豊かさを感じさせます。外に出て中に入って、外を見て中を見て、働くスタッフのみなさんも、この自然と一体となった暮らしを楽しんているようでした。