【浜田山の家】「新しい住まいの設計」掲載記事


街に開いた庭が 住民とつながる場に
「歩いて楽しい街にしたい」と語る建築家・二宮晴夫さんは、アトリエ兼自宅を建てる際、街に開いた公園のような庭を設けた。庭は道行く人々との自然なコミュニケーションを深める場になっている。
東京都・杉並区 自邸 家族構成/夫49歳 妻49歳 敷地面積/ 455.95 m2 設計/二宮晴夫

通りから奥まで連続する奥行きの深い緑の豊かさ
  建築家・二宮晴夫さんの事務所兼自宅は、私鉄沿線の駅からほど近い閑静な住宅街の一角にある。近隣の家々はさほど密集地ではないにもかかわらず、敷地と道路の間には高い塀や垣根か建物自身の壁が立ちはだかり、内部の気配は感じられず、庭の緑も見えない。
  一方、二宮さんの事務所兼自宅は、南北に長い敷地に対し、あえて中庭を挟んで東西に細長い2棟を建て、東屋のような半戸外の土間空間で両者をつないでいる。さらに、建物を道路から一歩後退させて広い前庭を配置。通りから見ると、手前の前庭から中庭、奥の庭まで奥行きの深い緑のゾーンが見通せ、まるで住宅街の一角に小さな公園が出現したかのようだ。
 「最近、特に若い世代は街に対してオープンな住まいをつくることに、さほど抵抗がなくなってきてるんじゃないかな。この建物が一つのきっかけになって、街並みが少しずつでも変わっていけばと思って......」と二宮さん。
  建物ができて以来、軒下で雨宿りをしたり、前庭のベンチで休憩する住民の姿も見られるという。
「草取りをしながら近所のおじさんと話していたら、『草は根っこから抜かなきゃ』と怒られました」 と事務所のスタッフは苦笑い。

試行錯誤を繰り返しつつ徐々に育ててゆく庭
  もともと、敷地の道路側には父上が営む診療所を併設した古い家が建っていた。のちに奥の隣地が売りに出た際に買い取り、二宮さんが子どもの頃は庭として使っていたという。独立後、奥の空き地に親世帯の住まいを新築したのが12年前。二宮さんは古い建物を事務所として使いつつ、道路側に自宅兼事務所を増築する2期計画を10年がかりで練っていたわけだ。
  向かいの家には、街道松のような立派な大木が残り、生け垣の緑も美しい。そうした敷地のよさを熟知した二宮さんだけに、母屋から向かいの借景まで、建物に合わ せて奥行きある緑でつなごうとい う庭のイメージもはっきりしてい たようだ。造園は設計・施工ともに二宮さんのアトリエと、現在事務所をシェアしているオフサイドプランニングが共同で行った。
  オフサイドプランニングの樋口彩土さんはこう語る。「工事は今も続行中です。使いながら徐々に手を入れるという意向でしたから。自然は読み切れない部分が多いので、実験場が目の前にあるのはありがたい。日々の庭の手入れも楽しんでやっています。晴夫さんもよく言ってますが、建物も庭もメンテナンスフリーなんてありえない。手間はかかるものです」。

やわらかな間接照明が 生み出すもう一つの顔
  ところで、この建物、日が暮れてくると表情が一変する。秘密はライティングにある。ダウンライトやペンダントなど、下向きの直接光はほとんど見当たらず、メインは間接照明。天井や壁に反射したやわらかな光が、建物をより立体的に浮かび上がらせる。中庭の木々もライトアップされ、左官仕上げの壁に映った葉の影も演出効果満点。そろそろ仕事は切り上げて、一杯飲みたくなる雰囲気だ。
  実際、二宮さんの事務所ではスタッフが料理してランチを楽しんだり、大勢が集まってパーティーを開く機会も多いそうで、1階の土間キッチンはそれを想定したつくり。戸外の風が心地よい季節、中庭に張り出した濡れ縁や半戸外の打ち合わせ室は三々五々、人が溜まる場として活躍する。
  昼は庭の緑が、夜は温かなあかりが、道行く人の目を楽しませてくれる建物。街にもたらす影響は決して小さくないだろう。ときどきカフェとまちがえて中庭まで入ってくる人もいるというが、「防犯上、問題ないのかと言われることもあるけど、塀で囲ってしまうより、死角がないからかえって大丈夫だと思いますよ。今のところ泥棒は入ってないし」。二宮さんはそう言って笑った。